レポート「詩であそぼう ことばを味わおう」

レポート「詩であそぼう ことばを味わおう」

日 時2020年10月10日(土)13:00〜17:00
開催地瀬戸内市民図書館 もみわ広場(瀬戸内市邑久町尾張465-1)
講 師渡邊めぐみ(詩のソムリエ、編集者、対話型鑑賞ファシリテーター)、スミカオリ(ヨノナカ実習室)、北川久美子(岡山県和気閑谷高等学校 非常勤講師)
概 要https://o-bunren.jp/labo27/

今回の会場は、開放的で親しみあふれる雰囲気が魅力の瀬戸内市民図書館。この日は1階にある「つどいのへや」に、約21名の参加者が集まりました。

最初に、3名の講師陣がプロフィールと好きな詩を紹介しました。国語教師として子ども達の表現活動を支えてきた北川先生からは、中学生の詩や俳句、作文をまとめる文集制作の活動について紹介があり、教育の現場で感じた子ども達の豊かな感性や、言葉と向き合うことで誰もが想いを表現できる素晴らしさについてお話をいただきました。

今回は気軽に詩を楽しむことをテーマに、グループワークを中心にしたプログラムを実施。詩のソムリエとして活動する渡邊さんの進行により、まずは全員で一つの詩を朗読するワークショップを行いました。

「ぴたぴた、たぷ、もももも」など、ひらがなの擬音語でつくられた詩を鑑賞し、そこからどんな場面が想像できるのかを2人1組で話し合います。水の音や生き物の動き、何だか柔らかそうなもの、お腹にいる胎児の様子など、思い浮かぶシチュエーションは人それぞれ。いろいろなイメージを頭に描きながら声に出すことで、言葉が生きてくるのを感じます。「詩は声に出すもの」ということに改めて気付かされる体験となりました。

続いて、連想ゲームのように取り合わせの言葉をつなげて俳句を作る「打越マトリクス」(佐藤文香さん考案)の作句法を用いたグループワーク。「新米」という言葉から思い浮かぶ言葉を輪のように書き出し、そこから連想した言葉をさらに広げます。途中で違うグループの紙と交換してさらに書き足し、出てきた言葉を組み合わせて1人ずつ句を創作。一見、関連しない言葉を五・七・五のリズムに乗せるのが難しいところですが、全員が制限時間内に句を完成させました。

「新米と ロマンスグレーの 帰り道」「新米の 神様宿る においかな」などの力作も多数。参加者からは「自分には思いつかない言葉を発見できた」「言葉の引き出しが増える」といった感想が寄せられました。

「連想で詩をつくる」というワークショップでは、生活の中の「とるにたらないこと」がキーワード。例えば「仕事帰りの夕日」「真新しい石鹸を使う」「窓に張り付くヤモリの白いお腹」など、ふと心にとまる好きなものや、小さな幸せを感じられる瞬間が誰しもあるもの。その「とるにたらないもの」を順番に読み上げ、一つの詩という形にします。

朗読する際は全員が輪になって座り、各自が音の鳴る物を持って楽器として鳴らしながら丁寧にゆっくりと朗読することで、詩のムードがぐっと深まります。声の強弱や呼吸を感じながら、言葉のイメージや意味を膨らませます。渡邊さんが「小さいけれど、かけがえのない日常」という言葉で締めくくると、胸に響く素敵な一編の詩が完成しました。

『とるにたらないこと』

とるにたらないこと
マンションの影がのびている
オレンジの金木犀を見つけた
私は昨日なかった雑草をぬく
いれたてのコーヒーのにおい
ま新しいスニーカーに通すくつひも

とるにたらないこと
ランチで60円の味噌汁をのむ時間
スーパーで美味しそうなポテトチップスを見つけた
子どもが寝た後のAmazon prime
毎日見上げる月の満ち欠け

とるにたらないこと
仕事終わりの夕日の色
バック駐車が一発で決まったとき
ドアのチェーンをかけたとき
レコードに針を落とす音
撫でる猫のやわらかさ

とるにたらないこと
赤い光の通知オフ
家の中で聞く雨の音
雨上がりの生ぬるさ、ツンとする匂い
キッチンの窓に貼りつくヤモリのお腹の白さが好き
冷蔵庫の野菜室にある果物を確認してつくる野菜ジュース

とるにたらないこと
それは小さいけれどかけがえのない日常

最後に、トークセッションでワークショップの感想や詩についての意見交換を行いました。

会場は瀬戸内市民図書館

参加者の発表に笑顔を見せる渡邊さん

国語教育の現場を語る北川先生。手にするのは企画監修する中学生の文集「想いよ届け」

参加者からの感想を聞くスミさん

詩の中の擬音語から思い浮かぶイメージを発表

「新米」をテーマにした連想俳句。多彩な言葉が飛び出します

生活の中で幸せを感じる、「とるにたらないこと」を書き出す作業

一人ひとりの「とるにたらないこと」が、一つの詩になりました

 

文化芸術交流実験室 

テキスト:溝口仁美