【レポート】アートマネジメントセミナー 「地域とアートプロジェクトの心地よい関係性」

【レポート】アートマネジメントセミナー 「地域とアートプロジェクトの心地よい関係性」

好きなところから参加できるオンライン研修

【研修要旨】
AAF(アサヒ・アート・フェスティバル)、横浜トリエンナーレ、BEPPU PROJECT、さいたま国際芸術祭など、数多くのアートプロジェクトで総合ディレクターやプロデューサーを務めるほか、助成金審査も数多く手がける芹沢高志さんを講師に迎え、地域とアートプロジェクトの心地よい関係性をテーマに、「アートプロジェクトは地域に何をもたらすのか」「アートプロジェクトにプロ以外の人間が関わるマネジメントのコツ」「市民活動型や市民参加型のプロジェクトと助成金」などについてお話しいただきます。
芹沢さんご自身の豊富な経験や実践事例から、少子高齢化や過疎、コミュニティの希薄化など様々な社会課題を抱える地域が、アートプロジェクトの先に見据える未来と可能性について学びます。

【内容】
イントロダクション(5分)
レクチャー:活動紹介(65分)
講師 芹沢高志さん/アートディレクター、アーツカウンシルさいたま アドバイザリーボード
質疑応答
(20分)

日 時 / 2024/3/27(火) 15:00-16:30
開 催 / YouTube配信
料 金 / 無料

研修のアーカイブはこちらからご覧になれます。
YouTube配信 OKAYAMA CULTURE V -おかやまカルチャー・ヴィ

研修レポート

概要

数多くのアートプロジェクトで総合ディレクターやプロデューサーを務めるほか、助成金審査も数多く手がける芹沢高志さんを講師に迎え、アートプロジェクトが地域にもたらすもの、プロ以外の人間が関わるマネジメントのコツ、市民活動型・参加型のプロジェクトなどについてお話しいただきました。少子高齢化、過疎、コミュニティの希薄化といった様々な社会課題を抱える地域にとって、アートプロジェクトの先に見据える未来や可能性とは? 芹沢さんの豊富な経験や実践事例を通じて学びます。

講師紹介

芹沢高志
神戸大学理学部数学科、横浜国立大学工学部建築学科を卒業後、(株)リジオナル・プランニング・チームで生態学的土地利用計画の研究に従事。89年に P3 art and environmentを開設。帯広競馬場で開かれたとかち国際現代アート展『デメーテル』の総合ディレクター、別府現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』総合ディレクター、「さいたまトリエンナーレ2016」ディレクターなどを歴任。さいたま国際芸術祭2023プロデューサー。

レポート

研修レポート(PDF)

●アーティストとの出会いが転機に

講義の最初は自己紹介を兼ねて、今までの経歴やアートとの出会いについて紹介がありました。もともとは都市・地域計画、環境、建築の分野で活動していた芹沢さんは、東長寺(東京・四谷)の新伽藍建設計画に参加したことがきっかけでアーティストと出会い、アートの世界に足を踏み入れました。「自分とは違うベクトルを持つアーティストとの取り組みは刺激的だった」と語り、アートの力を使って土地の持つ力を引き出すアプローチに可能性や面白さを感じたそうです。

その後は様々な芸術祭やアートプロジェクトに携わり、一つの空間や場所に留まらないスタイルで国際的に活動を展開していきます。主なアートプロジェクトの事例として、帯広競馬場に作品を点在させた「とかち国際現代アート展『デメーテル』」(2002年)や、キュレーターを務めた「横浜トリエンナーレ2005」、2009年から3回にわたって総合ディレクターを務めた「別府現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』」、「さいたま国際芸術祭」(2023)などについてスライドの写真を交えながら紹介しました。


東長寺(1989年) 写真:萩原美寛

●アート(問題発見型)とプロジェクト(問題解決型)について

続けて、本題の「地域とアートプロジェクトの心地良い関係性」についてトークを展開。芹沢さんは、アーティストとの協働を通して気づいた「問題発見型(アート)」と「問題解決型(プロジェクト)」の関係性について見解を述べました。アーティストは問題を発見し、新しい視点を提供していく存在ですが、一方でプロジェクトのマネジメント側は問題解決に向けて動くため、両者は真逆のベクトルを持っていると指摘しました。問題解決が重視されがちな現代社会において、問題を起こしていくアートの機能は重要であり価値があるもの。芹沢さんは、アートプロジェクトのより良い相互関係について、画家・エッシャーのリトグラフ作品「描く手」(二つの手がお互いの手を描いている)を関係性のイメージとして解説しました。芹沢さん自身は問題発見に力を入れた活動を続ける中で、「アートの中の幻(魔法)には、ビジョンを創り出していく強い力がある」と考えていることを語りました。


「横浜トリエンナーレ2005」アートサーカス会場風景 写真:細川浩伸


別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」 出展作品《Roshandel, 心の光》  ©Hossein Golba, 2009

●地域とアートプロジェクトは変化し合う関係

次にアートプロジェクトと地域について、「お互いが変わり続ける関係性」であると言及。変化をいかに面白く捉え、変化を受け入れる姿勢を持てるかどうかが、心地よい関わりをつくる上で重要だと述べました。そのためには、アーティストと地域の言葉を翻訳して双方に伝え、調整する役割の人達が必要不可欠である、と考えています。

終盤では、参加者とディスカッションを図るために質問コーナーを設けました。その中で挙がった「ボランティアや一般の人たちが関わる場合のマネジメントのコツは?」という質問に対して、芹沢さんは「そこにもアーティストと市民の調整役となる存在が重要」だと回答。調整役はアーティストのタイプを見極め、適切な対応や仕組みをつくることが求められます。一般市民の参入によって新しい視点やパワーを取り入れられることは、アートプロジェクトにおいて大きなメリットとなります。地域とアーティストがお互いに尊重し合いながらやりとりや働きかけができれば、アートプロジェクトに楽しい協働が生まれ、地域の姿も変わっていくのでは、と話しました。


「さいたまトリエンナーレ2016」 出展作品《Elemental Detection》  ©目[mé],  2016

●Q&A ※参加者からの質問を一部抜粋

Q1. アートプロジェクトによって、地域やアーティストが変化した事例はありますか?

A. まず言っておきたいのは、変わるのは時間がかかるということ。過去のアートプロジェクトでは、回数を重ねる中で地域の変化を感じられました。しかし、1回実施すれば何かが劇的に変わるだろう、と最初から期待できるものではないことを考えておきたいですね。社会的に正解や問題解決を急ぐ風潮が強く、アーティスト側も地域の要望への対応力や解決力に長けているケースがあります。しかし変化や結果を求めすぎると、アーティストの作家性が変質していき、相互関係が硬直して小ぶりなものになってしまいます。何年後には結果が出るという考え方ではなく、熱意を持った働きかけや関係性の持続こそが理解者を増やし、変化のためにやれることだと思います。続ける中で確実に変えられます。

Q2. 問題解決型、問題発見型の役割をチームの中で生かすコツは?

A. 1人の人間の中にも解決型・発見型の両方の思考が存在し、そのバランスは状況により変化するものだと思います。どちらの傾向が強い人かを見極めた上でチームワークに生かし、違うベクトルが正面から激突しないように「少しズラす」というイメージで調整を図るのが良いのではないでしょうか。ズラすことでチームの動きを止めず、ぐるぐると回して形作っていくような関係性が生まれると面白くなると感じます。人手不足の課題もありますが、1人だけで問題を解決しようとせず、グループで共有・分散させることが大事です。

Q3. 問題解決型・発見型の間を取り持つ人は必要だと感じますか?

A. それこそがプロジェクトの要だと思います。現場ではコーディネーターと呼ばれる方がその役割を担っているケースが多いですね。単に間を取りもつだけではなく、調整役として両方の役割をグラデーション的に体現してくれる人の存在意義を感じています。今までの経験上、そういった方の存在が居るか居ないかによって事の進み方がまったく違うと言えますね。

参加者コメント
すごく自分事として聞くことができ、大変参考になりました。豊富な経験・実績があるからこその実感できるお話で、時間があっという間でした。実際の映像、写真もスライドで見せていただいたので、よりイメージが伝わりやすかったです。

講師コメント
文化芸術の情報や取り組みについては、地域の中でも意外と知らないケースは多々あると思うので、今回のように定期的に研修や各施設が集まる情報交換会を行うのは非常に良い機会だと思います。