会場に足を運んでくださった方のみが聞ける“ここだけの話”
【研修趣旨】
一般財団法人地域創造は、文化・芸術の振興による創造性豊かな地域づくりを目的として、全国の地方団体等の出捐により1994(平成6)年に設立された、総務省の外郭団体です。
地域の公共ホール・劇場の職員の企画制作力向上を図る「ステージラボ」や、演劇の手法を活用し、公共ホールに派遣した演劇の表現者と公共ホールの職員が地域に応じたプログラムを企画・検討する「リージョナルシアター事業」など、多彩なプログラムを通じて主に公共ホールおける人材育成をリードしてきました。また、地域の公立美術館職員の実践的な運営能力の向上を目的とした「オーダーメイド型研修事業」や、公立美術館の企画・制作能力の向上と連携促進を図るための「共同巡回展支援助成」など、公立美術館の運営・企画支援も行なっています。
今年のアートマネジメントセミナーは、その地域創造が年1回のペースで発行する雑誌「地域創造」の編集プロデューサーとして、雑誌の創刊から全国各地の公立文化施設の現場を取材して来られた坪池栄子さんを講師に迎え、文化・芸術環境づくりのケーススタディーや公立文化施設の有効な運営方法を模索する知恵などについてお話を伺います。坪池さんは自ら足を運び目で見てきた人にしかわかりえない公立文化施設のあれやこれやを、本音で語ってくださる稀有な方です。今回はオンライン配信なしで会場に足を運んでくださった方のみが聞ける“ここだけの話”。お見逃しなく。
【内容】
●イントロダクション(5分)
●レクチャー:活動紹介(75分)
講師 坪池栄子さん/株式会社文化科学研究所、「地域創造レター」「雑誌地域創造」編集プロデューサー
●質疑応答(10分)
日 時 / 2023/9/22(金) 15:00-16:30(予定)
場 所 / 岡山県天神山文化プラザ 第2会議室
料 金 / 無料
研修レポート
概要
1994年に設立された「財団法人 地域創造」(2014年に一般財団法人に移行)は、文化・芸術 振興による創造性豊かな地域づくりの支援を目的とした団体で、多彩なプログラムを通じて地域における文化・芸術活動を担う人材の育成や、公立文化施設の活性化を図る取り組みを行なっています。今回は地域創造が発行する『雑誌 地域創造』と地域創造レターの編集プロデューサー・坪池栄子さんを講師に迎え、豊富な現場取材の経験で得た文化芸術環境をつくる事例や裏話、公立文化施設の運営方法の知恵などをお話しいただきました。本音で語る「ここだけの話」として、オンライン配信無しの貴重な講義となりました。
講師紹介
坪池栄子
株式会社文化科学研究所/『地域創造レター』『雑誌 地域創造』編集プロデューサー。1955年生まれ。1981年〜1995年までぴあ株式会社。情報誌ぴあの演劇記者を経て、文化科学研究所(旧・ぴあ総合研究所)編集プロデューサーを務める。地域創造が発行する『地域創造レター』『雑誌 地域創造』(1995年〜)と、国際交流基金が運営する「PerformingArts Network Japan」(2004年〜2023年)を立ち上げる。地域創造大賞(総務大臣賞)審査員ほか。
レポート
講師を務める坪池さんは、全国津々浦々の公共文化施設に自ら足を運び、文化芸術・地域づくりの様々な現場を取材し続けています。その経験をもとに語られた具体的事例や忖度なしの本音トークには、研修の参加者だけに向けたオフレコ話も盛りだくさん。社会・経済・文化を取り巻く環境の変化を改めて意識し、文化施設における役割や取り組み方を見直すことの必要性を感じられる講義となりました。この報告書レポートではいくつかの固有名詞や具体的な情報は省略や言い換えするなどして、概要として共有できる部分をまとめています。
●坪池さんが携わった、3つの重要な媒体
まずは自己紹介を兼ねて、今までの人生で携わってきた3つの重要な媒体を紹介しました。1つめは情報誌の『ぴあ』で、坪池さんは1981年から演劇記者として80年代の小劇場ブームや海外作品の日本公演など、演劇カルチャーの最前線を取材してきました。当時は「ぴあで記事が出たら3000人の観客が動く」と言われるほどに首都圏のカルチャー・街遊びを牽引し、新たな都市文化のムーブメントを創り出す雑誌として定着。坪池さんもぴあと共に多彩なエンターテインメントに心揺さぶられる青春時代を過ごし、編集者としてのノウハウや知識、感性を磨いたそうです。
2つめは、「財団法人 地域創造」が 1996年に創刊した『雑誌 地域創造』です。外部の編集プロデューサーとして創刊から携わり、広報誌『地域創造レター』も制作。立ち上げの際には全国の文化施設関係者のリアルな声を取材したり、地域メディアの掲載情報を収集したりするなどの綿密なリサーチを重ねて企画を立てたそうです。毎号にわたって文化芸術を通じた地域づくりの現場レポートや新しい事例を紹介し、レターでは相談先となる担当者名を記載するなど、文化施設の運営をする人にとって本当に必要な情報に特化した紙面づくりの裏側を聞くことができました。現地取材した事例の数は、過去30年間で延べ800件ほど。坪池さんは実情や課題を振り返りながら、「地域創造の媒体に携わったことによって、初めて地域やコミュニティというものに客観的に出会うことできた」と話しました。
3つめは、創刊から19年間も編集制作に携わっている国際交流基金のウェブメディア「Performing Arts Network Japan」。坪池さんは日本の舞台芸術情報や、海外では無名のアーティストを紹介する上で、注目度や検索率を高めるための切り口や仕掛けについて取り上げました。このウェブメディアでは、世界的な文脈を踏まえてアーティストを位置付け、ロングインタビューにより、作品だけではなく、創作活動の背景やルーツを伝え、中身の濃い情報を提供。海外の舞台芸術関係者に同じ土俵で興味を持ってもらえる視 点を大事にした、と解説しました。
●キーワード「環境は変化する」
次に、本題となるキーワード「環境は変化する」について話題を移し、地域・文化活動の現場で見られる流動的な組織体制や人材不足といった課題について触れました。公立文化施設においては、人事異動や社会情勢、期間が限られている指定管理者制度などの影響を受けて現場状況が大きく変わることも多く、中長期的な計画による「目に見えにくい成果」を求めるのは難しい、との見解。大切なのは、今の現場で実現できることを一歩ずつやって成果を積んでいくことであり、環境の変化に対する対応力や信頼関係をつくることも求められている、と語りました。
また、組織体制の変化においては「文化的原体験と自覚をもった人を広げること」も必要だと考えているそう。たとえポストを離れても、その人が地域のプレイヤーとなって別の形で経験を生かすことができれば、文化の担い手がどんどん増えていくというオルタナティブな広がりが生まれます。経験と知識を持ったプレイヤーを増やして連携を図れば、地域の自力につながっていくと感じているそうです。
●厳しい現状と担い手の多様化、アートによるまちづくりの取り組み
坪池さんは公立文化施設をとりまく環境の変化について、文化芸術事業の経費や人口・文化施設数の推移をグラフで説明。建設費・運営費の削減や人口減少など、地域創造が設立された30年前よりも厳しい現状に変わっていることを数字で示しました。また、2000年以降の文化芸術に係る法律の整備や都市の再開発ラッシュ、IT技術の進展といった出来事についても詳しく解説。施設・人・事業のすべてをアップデートすることが求められる時代において、地域の公立文化施設や財団も今までの枠組みから脱却して考え直すべきだと指摘しました。また、ハラスメント防止策が重視されている現状にも触れ、みんなが心理的な安全を担保できる環境づくりが求められている、と話しました。
環境が大きく変わっていく中で、アートによるまちづくりの取り組みが広がり、文化の担い手も多様化しています。自治体だけではなくNPO、指定管理者、学校、企業、市民など、すべてが担い手となって主体的に関わるようになりました。事業領域も拡大し、生涯学習、教育、福祉、防災、産業、医療、地域再生と、ありとあらゆる場面でアートが関わるまちづくりが検討され、その可能性もますます広がっています。
最後に、地域の実情に合わせた各地の参考事例をいくつか紹介。変化へ対応するような果敢な取り組みは、日本各地で少しずつ始まっています。アートやまちづくりにおける問題意識も変わり、今は社会そのものを作っていく感覚がある、と坪池さん。自律型、協働型、多参加型、循環型の社会システムを構築 していくことが求められており、既存の価値観からの逸脱を信条とする創造活動はそうした社会に向けた場づくり、人づくりのために大いに力を発揮できる可能性がある、とまとめました。
雑誌 地域創造
「一般財団法人 地域創造」が年1〜2回発行する雑誌。1996年に創刊し、公立文化施設、自治体などの職員、アートマネージメント関係者を対象とし、文化による地域づくりや芸術環境づくりのために役立つ情報を発信している。特集による事例紹介や座談会などの企画ページにより、国内外の取り組みを紹介している。
【バックナンバー】 https://www.jafra.or.jp/library/magazine/backnumber/
地域創造レター
「一般財団法人 地域創造」の広報誌として、1995年度から毎月発行。財団からのお知らせ、各地の公立文化施設の催し物情報やレポート、 制作実務がわかる読み物などを掲載。
【バックナンバー】https://www.jafra.or.jp/library/letter/backnumber/2023/336/
国際交流基金ウェブメディア Performing Arts Network Japan
国際交流基金が運営する舞台芸術のウェブメディア。2004年の創刊から2019年まで坪池さんが編集人を務め、日本の現代舞台芸術のアーティストと海外のプレゼンターのロングインタビューなどを日本語と英語の2言語で発信(2024年4月にリニューアル)
https://performingarts.jpf.go.jp/