Youtube配信 ⑤ 自然との共生から生まれるガラスの立体造形
文化芸術が日々生み出される場所と、そこで創作や生活をしている表現者に会いに出かけます。
日頃私たちが足を踏み入れることの出来ないプライベートな現場には、どんな仕事道具があり、どのような手順で創作をされているのでしょうか。
訪問実験室の映像や登場する人々の言葉を通して、これまで関わりのなかった分野に、突如、興味が湧くかもしれません。
進むべき道に迷っている学生の方々にも、おすすめです。
訪問実験室シリーズの第5弾は、ガラス工芸家であり倉敷芸術科学大学の教授としても活躍する、磯谷晴弘さんのアトリエを訪問。作品が出来上がっていくまでのプロセスを拝見しながら、ガラスという素材の不思議な魅力について教えていただきました。
さらに、作家人生のルーツとなった高校生活やガラスとの出合い、自然豊かな吉備中央町での暮らしと創作活動の関係性についてもじっくりとお聞きしています。
ところで、ガラスは個体、それとも液体、どっちだと思いますか? その謎にも迫ってみました。このメイキングレポートと合わせて、ぜひ本編のYouTube動画もお楽しみください。
形 式 / YouTube配信(岡山県文化連盟 公式チャンネル「おかやまカルチャー・ヴィ」にて配信中)
対象者 / 工芸、彫刻、陶器、ガラス
おかやまカルチャー・ヴィ 美作国 食は文化の交差点(冊子PDF)
収録レポート
のどかな里山風景が広がる、森の中の小さな集落。木立を抜ける細い山道を進むと、赤い扉のモダンな平屋が姿を現します。ここはガラス工芸家の磯谷さんが2012年に建てたアトリエ。軒下には大型のガラスを切断、研磨するための機械や作業台が並び、室内は書斎と工房の2室に分けられています。少し歩いた先には別の工房があり、ガラスの原型を作る窯や作品の保管スペースを確保。ガラス制作に必要なツールがひと通りそろった、使い勝手の良い空間となっています。
「ここは民家が密集していないので、大きな作業音を出しても大丈夫。緑に囲まれた秘密基地みたいで、制作に没頭できますよ」と笑う磯谷さん。140キロもの大型オブジェを囲みながらのインタビューでは、磯谷さんがガラスに惹かれたきっかけや、普段の作品づくりについてお聞きしました。
次に工房内で実際の作業風景を見学。磯谷さんの手がける彫刻的な造形作品は、耐火石膏で型をつくり、丸い色ガラスの原材料を詰めて電気炉で焼成する技法によってつくられます。出来たガラスの原型は、切削加工を行うフライスや研磨用の平版、パルパといったさまざまな道具を使い、思い通りの形や質感になるまで段階的に磨き上げていきます。
ガラスは専用工具が無いとできない作業も多く、日ごろのメンテナンスも必要不可欠です。磯谷さんには、ガラスを安全に扱うコツや工具の大切さについても解説していただきました。
神経を研ぎ澄ませながら根気よく作業を行う磯谷さん。ガラスから響く音や手ざわりの微妙な違いを感じながら、作品との対話を重ねます。
とろみを帯びたガラスがさまざまな形やテクスチャーに変わり、その表面は風景のように表情豊かです。
出来上がったのは、磯谷さんならではの力強く美しいガラス作品。透明な輝きと揺らめきは、まるで深い海のよう。
磯谷さんには「ガラスは個体か、それとも液体か?」という問いにもお答えいただき、一連のプロセスを通じて、不思議でユニークなガラスの世界を体験することができました。
後半はアトリエの書斎と古民家の自宅に場所を移し、創作活動のルーツや日々の暮らしに話題を広げました。インタビューでは、磯谷さんが青春時代を過ごした「基督教独立学園高等学校」での思い出をプレイバック。自然の中での寮生活や個性豊かな教育方針が、現在の活動や生き方の基盤になっていることを話してくださいました。
さらに、海外でガラス工芸を学んだ20代、ガラス工芸家・小谷眞三さんとの出会い、岡山移住後の現在に至るまでの経緯について、興味深いお話をたくさん聞くことができました。
自然の営みを大切にする磯谷さんにとって、農業も大切なライフワークのひとつです。インタビュー後は野菜畑や花壇、養蜂を行う蜂の巣箱などを見せていただきながら、庭で育てたミントを使ったハーブティーでひと休み。農のある暮らしと創作の関わりを紐解きながら、会話の弾む贅沢な時間を過ごさせていただきました。
美しいガラス作品はもちろん、素敵なアトリエ空間と里山のロケーションも必見です。
プロフィール
聞き手
大月ヒロ子
映像・編集
皿井淳介
収録レポートテキスト
溝口仁美