レポート「美食地質学:この地域の食はなぜ美味しいのか」

レポート「美食地質学:この地域の食はなぜ美味しいのか」

日 時:2023年9月24日(日)11:30~16:00
開催地:渚の交番 ひなせうみラボ(備前市日生町日生3518-5)
講 師:巽好幸(たつみ よしゆき ジオリブ研究所 所長/マグマ学者/理学博士)
            岡嶋隆司(おかじま たかし 考古学・食文化史研究者/料理人)
概 要https://o-bunren.jp/labo43

会場は日生諸島の頭島(かしらじま)にある「ひなせうみラボ」。豊かな海を次世代につなぐための活動拠点であり、穏やかな海景色を一望できるスポットです。今回は地域活動に携わる方や食に興味を持つ方など、10名ほどの参加者が集まりました。

まずは考古学・食文化を研究する岡嶋さんから、岡山の食材や郷土料理の歴史、文化についてのお話がありました。岡嶋さんは、昔の文献から江戸時代に寿司やサワラの刺身が食べられていた史実を紹介。また、ママカリの名前の由来「まま(飯)を借りるほど美味い」という伝承について、水揚げ量が多い10月が稲刈り時期であることから「飯を借る・稲を刈る」の2つの意味が結び付くことを推察。身近な食材を題材に、食文化の歴史を紐解くことの面白さを伝えました。

続いて世界的な地質学者の巽さんが、美食地質学に基づいた瀬戸内の自然と美食の関わりについて紹介しました。「なぜ瀬戸内海の魚が美味しいのか」を解明するため、瀬戸内海がいつ頃どのように成り立ったのかを解説。島の密度が高い瀬戸内海は、地殻変動により瀬戸(隆起域)と灘(沈降域)が巨大なシワとなって繰り返す特徴的な地形です。潮流の速さや温暖な気候、さらに河川によって周辺の山地から森の栄養分が流入することで、生態系の豊かな内海となっているのが特徴。「自然の恵み」という曖昧な言葉ではなく、地質的な特徴から種類が豊富で美味しい魚が獲れる理由が理解でき、参加者も興味深く耳を傾けました。

昼食後は、全員で「ひなせうみラボ」の周辺を散策。多島美を眺めながら、周辺の島々の成り立ちや地球環境についてお聞きしました。次に、犬島貝塚の調査を行う岡嶋さんによる貝塚の一部から貝や土器の破片を掘り出すワークショップを開催。参加者は古代ロマンに想いを馳せつつ、発掘という貴重な機会を楽しみました。

最後は講師2名のトークセッションと質問タイム。四国の食文化や酒処と呼ばれる地域の特徴、気になる地震についての話、未来の食はどうなるのか、といった質問に応えながら、地質学と食についての話題を広げました。

感想として、巽さんは「魚という恩恵はもちろん、地震や環境についても考えるきっかけになれば。美食地質学を日々の生活に活かしてほしいです」と話し、岡嶋さんは「確実なことが言えないのが考古学や食文化史の難しいところですが、切り口や見方を変えて可能性を探っていく面白さを感じてもらえれば」と振り返りました。参加者からは「自分の住む地域を深堀りできた」「分かりやすい話で地域食材への興味がわいた」という感想が挙がりました。

美食地質学の観点で自然と食文化を解説

瀬戸内の地形の成り立ちを説明する巽さん

地魚や郷土料理について話す岡嶋さん

会場となった「ひなせうみラボ」

昼食後は周辺を散策しながらトーク

参加者が持参した魚「ギマ」を観察

貝塚を掘りだすワークショップを実施

昼食はカフェ「コハク」の地産食材を使った弁当

文化芸術交流実験室 

テキスト:溝口仁美