レポート「ことばのおと、おとのことば」

レポート「ことばのおと、おとのことば」

日 時:2023年11月26日(日)11:00~16:00
開催地:喫茶さざなみハウス(瀬戸内市邑久町虫明6539)
講 師:川瀬慈(かわせ いつし 映像人類学者/国立民族学博物館准教授)
             ハブヒロシ(アーティスト/遊鼓奏者/医学博士)
概 要https://o-bunren.jp/labo45

今回は「ことばと音」をテーマに、双方の未分化的な関係性について考える実験室を開催しました。会場は、瀬戸内市の国立療養所「長島愛生園」の中にある「喫茶さざなみハウス」。窓からはきらめく瀬戸内海の景色が一望でき、長島の穏やかな空気感が会場を包みます。参加者は思い思いに会話を弾ませるなど、開始前からリラックスムードが漂う回となりました。

まずは川瀬さんが、言葉と音楽が交わる異文化を映像と共に紹介。川瀬さんが調査するエチオピアの吟遊詩人「ラリベラ」は、家の前で家人にまつわる歌や演奏などを行って報酬を受け取り、集団で旅をしながら音楽で生計を立てています。ラリベラが歌い続ける背景には「ハンセン病の恐怖から逃れるため」といった諸説があり、スピリチュアルな伝承者としての側面も持っているのだそうです。次に紹介した楽師「アズマリ」は、権力者と庶民の言葉を歌で仲介するマスコミ的な役割を担っています。映像では、アズマリが酒場の客と歌の掛け合いを楽しむ様子が映し出され、川瀬さんは「人々の心情を代弁する言葉の職人である」と解説。吟遊詩人について、「音楽と語りの未分化の魅力を持っている」と話しました。

後半は昼食を挟み、ハブヒロシさんのトークへとつなぎます。ハブさんは自己紹介を兼ねて、現在取り組んでいるという丹田呼吸法をレクチャー。深い呼吸で頭をすっきりさせたところで、多彩な肩書から公衆衛生学や音楽活動について話題を膨らませます。ハブさんは音というテーマからオリジナルの打楽器「遊鼓」を紹介し、叩きながら歩いて高梁市に移住したというエピソードを披露。参加者はハブさんのユニークな世界観に引き込まれました。

好きな言葉や詩を披露するコーナーでは、参加者から長島愛生園と縁の深い詩人・志樹逸馬(しき いつま)や茨木のり子の詩、絵本の一節などが紹介され、言葉や朗読の魅力について語り合いました。続いて、手足や声を使って音を合わせるワークショップに挑戦。声を出すことで心が開放されていくのを実感でき、難しいながらも楽しい時間となりました。音で遊んだ後は、川瀬さんとハブさんのトークセッションで締めくくりました。

今回の実験室について、川瀬さんは「この場所で豊かな時間が過ごせました。ハブさんの世界観に触れて、心に風穴が空きました」と振り返ります。ハブさんは「川瀬さんとご一緒できて、いろいろな種をいただいた」と話し、参加者も含めて良い刺激を与え合える時間となったようです。

海が一望できる会場「喫茶さざなみハウス」

講師を務める映像人類学者の川瀬さん

エチオピアの吟遊詩人・楽師の映像を紹介

遊鼓について話す講師のハブヒロシさん

参加者と丹田呼吸法を体験してみる

手や声など、音を鳴らし合うワークショップ

実験室を振り返りながらトークセッション

地元野菜を生かした体に優しいお弁当

文化芸術交流実験室 

テキスト:溝口仁美