レポート「溶け合う異文化:自然の一部として『個』を考える」

レポート「溶け合う異文化:自然の一部として『個』を考える」

日 時:2023年10月8日(日)12:00~16:00
開催地:岡山市立犬島自然の家(岡山市東区犬島119-1)
講 師:今福龍太(文化人類学者・批評家)
            岩本象一(音楽家)
概 要https://o-bunren.jp/labo44

今回は自然とアートが調和した瀬戸内海の小さな島・犬島の施設を会場に、音楽・民族学的なアプローチから「溶け合う異文化」について考える実験室を開催しました。

まずは昼食をとり、親睦を深めたところで今福さんによる講義を開始。文化人類学者として調査研究を行う今福さんは、20代の頃に衝撃を受けたクレオール(混血)文化に触れつつ、古代から続く自然環境と人間の相互関係について話しました。自然界のエレメントから「風」をテーマに取り上げ、風を表現した文学や芸術、自然の中に存在する音楽を紹介。思想家ヘンリー・ソローの「すべての音は沈黙とほとんど同じ泉から湧き出る」という言葉や、風で奏でる「エオリアン・ハープ」や凧といった風の鳴りを音として表現する文化について解説しました。後半は奄美や沖縄の島唄を映像や三線の演奏で紹介し、人の暮らしや想いと密接に関わる民謡・歌遊びの魅力を伝えました。

次はガムラン奏者として活躍する岩本さんが、インドネシアの風土やジャワ島に伝わるガムラン音楽の特徴を紹介。「シトゥル」と呼ばれる弦楽器や太鼓の演奏を披露しました。主に打楽器を奏でるガムランの特徴について、「すぐに音が出せて誰もが参加できる」と語る岩本さん。参加者は輪になって集まり、岩本さんが奏でるエキゾチックな音色に耳を澄ませます。社会構造や信仰、風習、内面性といったガムラン音楽の背景にも視点を向けつつ、心に響く音楽体験を楽しみました。

後半は岩本さんが持参した世界の様々な笛を参加者たちが吹き、音の一部になってみるというワークショップ。当日はあいにくの雨でしたが、屋根下で参加者全員との即興演奏を試みます。「誰も音を出していない時に鳴らす」「動きながら鳴らす」「5回鳴らす」などのパターンを設けながら、全員で音を重ね合わせます。音に集中するほど感覚が研ぎ澄まされ、静寂の中に鳥の鳴き声や雨音が浮かびます。講師の2人も持参した楽器を演奏。全員で即興のメロディを奏でながら、島の音も含めた自由なセッションを楽しみました。

最後は講義で挙がった「沈黙からの音」というキーワードをもとに、岩本さんが手話の歌を紹介。講師の2人を中心に感想を述べあい、「素晴らしい体験になった。もっと音の採集やセッションを楽しんでみたい」と締めくくりました。

参加者からは、「自然の中で生きている感覚が腑に落ち、場と企画、皆さんの力が溶け合って刺激的だった」「笛の演奏が楽しかった」などの感想がありました。

今回の会場となった「犬島自然の家」

奄美や沖縄の民謡について話す今福さん

風と音をテーマに、自然について考える

岩本さんによるガムランの生演奏

ガムラン演奏で使う楽器を解説

岩本さんが持参した笛を1管ずつ選ぶ

屋外に出て、笛の音&島の音とセッション

昼食は犬島でカフェを営む池田さんの特製弁当

文化芸術交流実験室 

テキスト:溝口仁美